東京地方裁判所 事件番号不詳〔2〕 決定
主文
本件準抗告を棄却する。
理由
一 本件準抗告申立の趣旨及び理由は、弁護人天野憲治作成名義の「勾留取消請求棄却の裁判に対する準抗告申立書」および「勾留取消の申立」と題する各書面記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
二 まず本件勾留の理由の有無について考えるに、検察官提出の本件捜査記録によれば、
(1) 被告人が本件起訴状記載の公訴事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。
(2) 本件については、被告人は一応これを認めているが、後述の如く物的証拠に乏しいため、公訴の維持にあたつては被告人および関係人の供述に依存するところがかなり大きいものと認められるところ、被告人の親族その他の関係人の動向などにてらし、被告人が関係人と通謀して本件の罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。
(3) なお、被告人は、定職につかず昨年六月ころから知人宅などで寝泊りするようになり、深夜の外出も頻繁になつて、最近では帰宅する方が少なかつたことが認められ、更に同種余罪の存在することもうかがわれ、その罪質などを考えあわせると、被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。
三 (準抗告申立の理由に対する判断)
本件記録によると、被告人は、本年二月一二日住居侵入被疑事実について現行犯人として逮捕され、同月一四日付で右事実およびその後発覚した窃盗被疑事件について勾留(以下第一の逮捕・勾留という。)され、同月二一日付で右勾留期間が三月四日まで延長されていたものであるが、右勾留期間中である二月一四・一五・二〇・二二日の四回にわたり本件起訴にかかる放火未遂その他の放火被疑事件について取調べを受け、右住居侵入・窃盗被疑事件については、処分保留のまま二月二三日釈放され、直ちに本件放火未遂被告事件について逮捕され、他一件の放火被疑事件を加えて同月二五日付で勾留(以下第二の逮捕・勾留という。)されていたところ、三月四日付で申請した勾留延長については、第一の勾留期間が事実上本件放火未遂などの捜査に流用されていたことを理由にその請求が却下され、これが準抗告審でも維持された事実が認められる。しかしながら、他面被告人の前住居侵入・窃盗被疑事件については、二月一二日に被告人の供述調書四通、参考人の供述調書二通、捜査報告書・実況見分調書など五通、一三日に被告人の供述調書一通、参考人の供述調書三通、捜査報告書など三通、一五日および一七日に捜査報告書各一通、一八日に被告人の供述調書一通がそれぞれ作成されている。
以上の経過と右各罪の罪質情状からみると、なるほど前記のとおり本件第一の勾留直後に、引き続き別件である放火の事実について取り調べされている事実はあるにせよ、本件第一の逮捕・勾留が専ら所論放火事件捜査の目的のみでなされたと認めるに足る根拠を見いだすことは困難である。従つて、本件第一の逮捕・勾留の違憲違法を前提とする所論はいずれも採り難いところである。
次に、本件起訴の適否について考えるに、本件記録によると本件放火未遂事件につき物的証拠の乏しいことは認められるが、本件起訴自体が違法であるとはいえず、被告人の自白もあり関係人調書もあること、本件が現住建造物放火未遂という重罪であることなどからみれば、専ら別件の捜査のみを目的として起訴されたものとは認め難く、所論のように検察官の準抗告申立書記載の字句のみによつて右結論を左右しえない。そして、本件起訴後に別件についての取調べがなされていることは記録上明らかであるが、別件である放火被疑事件については、本件被告事件の起訴される以前から被告人の自白が得られていたのであり、その起訴後は主として関係人の取調べが行なわれ、被告人については、関係人の供述との関係で取調べがなされたもので、その結果別件の起訴も本件の起訴の一七日後になされていることからみても、本件起訴後勾留中の被告人について別件の捜査がなされたことは、この事案においては、やむを得なかつたものと認められる。従つて、本件起訴後に別件に付き被告人の取調べがなされたという一事をもつて、本件起訴の目的が専ら別件取調べのためのものであつて公訴権の濫用に基く不適法なものとは認められない。
よつて、結論において同旨である原裁判には所論のような経験則違反・理由不備の違法は認められない。
また、弁護人は、本件起訴にかかる放火未遂の事実は、第二の勾留の基礎とされた犯罪事実の一部であるが、この両者を比較した場合その軽重の差が余りにも甚だしく、勾留の理由と必要の有無を判断する基礎事実として実質上同一性を欠くものであると主張するが、本件公訴事実は現住建造物に対する放火であつてその性質上きわめて重大であるばかりでなく逮捕勾留された事実そのものであるから、勾留の理由・必要の有無については本件公訴事実自体について判断すれば足るのであつて、弁護人の右主張は、独自の見解に立つものであり、当裁判所は、これを採用しない。
四 以上のとおり、本件公訴事実については、勾留の理由があり、なお勾留を継続する必要があるものと認められるから、本件勾留取消請求を却下した原裁判は結局相当であつて、本件準抗告は理由がないから刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。